頑なに医療機関の受診を拒む従業員に対し強制力を持って受診させられるかという問題はしばしば人事労務担当者の頭を悩ませます。命の危険がある健診異常、体調不良を理由に欠勤が頻発するが受診せず等。
まずは医学的なリスクを医師の立場から産業医が(または産業保健スタッフが)本人に受診の必要性を説明すべきでしょう。しかし産業医や人事労務担当者の再三の説得に応じずそれでも受診しない場合はそこで止めて放置しまっていいか、強制力を持って受診させるべきか、強制する場合はどのように強制力を持たせるのか悩ましいところです。
話は変わり労働契約法第5条に定める安全配慮義務は予見可能性と結果回避義務で構成されます。説得はしたが未だ受診に至らぬ状態で放置することは会社が結果回避義務を怠ったと判断される可能性があります。十分に安全配慮義務を履行するためにここから一歩踏み込みペナルティを駆使したアクションが必要になります。大きく2つあり、使い分けまたは併用します。
1つは業務命令として受診を指示することです。従業員の「診療を受ける自由」との兼ね合いについて「合理性・相当性が認められる限度で受診義務を負う」つまり業務命令としての受診指示及び受診拒否に伴う懲戒処分を有効としています(電電公社帯広電報電話局事件昭和61年3月13日)。また就業規則に定めがない場合も受診命令を有効とするとする京セラ事件昭和61年11月13日があります。*ただし就業規則に受診の定めを置くのが無難です。受診命令の合理性・相当性は実態に基づく医師(産業医)の意見で担保されるものと思われ、会社のアクションにお墨付きを与える重要な意味を持ちます。
もう1つは就業禁止&休職命令とする方法です。*ここには労務提供が不完全なことを理由に受領を拒否する論点も乗ります。
労働安全衛生法第26条に定める「労働者の遵守義務」も見逃せません。*産業保健分野で自己保健義務と呼ばれます。
従業員の心理面では現状維持バイアス、プロスペクト理論も重要です。差し迫る大きなマイナス(ここでは懲戒処分や就業禁止)を回避するためヒトは行動に移します。詳しくは別記事に譲ります。
「貴方には貴方の身体を自由にできる権利がある。しかし一方で会社は安全配慮義務を負っておりこのままいくと貴方に懲戒処分や就業禁止の命令を出さざるを得なくなってしまう。それはお互い不幸になるだけで業務の一環と思って受診をお願いしたい」個人的な経験になりますがこのように説明し受診されなかった方は過去一人も居られません。実際はペナルティを実行に移す前に受診されます。
参考文献
電電公社帯広電報電話局事件昭和61年3月13日判決文
メンタルヘルス不調による休職・復職の実務と規定